まろやかな赤酢の酢飯で巻く寿司屋のTKGとは

関西・オンナの美酒佳肴

まろやかな赤酢の酢飯で巻く寿司屋のTKGとは

【鮨 美菜月】大阪・曽根崎新地 

キタの夜に灯りが戻った11月、「鮨 美菜月」を訪ねた。移転の連絡をもらってから、なかなか行く機会がないままコロナ禍になってしまったのだ。外食の習慣が途絶えた時期、「この人の料理が食べたい」と思い続け、波が落ち着いた貴重なひとときに予約の電話をかけた。

TKG

電話の向こうから聞こえる変わらぬ声、この店の主人、﨑貴之さんの最初の店は堺だった。料理に対するこだわりと気さくな人柄に、この人は本当に料理が好きなんだと感じた、15年ほど前のことだ。西天満に移転したのは2010年6月、決して景気がよいとはいえない時代に、彼の挑戦に驚いた。大通りから一本入った静かな場所にあったその店のカウンターが心地よく、なにかの時には利用させてもらった。ある時など、寿司特集を取材するのに若い女子ライターたちがちゃんとした寿司を知らない、ということで開店前の時間にセミナーをしてもらったこともある。あの時のお支払いは、きっと材料費にも満たなかったくらいで恐縮する私に、「寿司を知って、もっと好きになってもらえたら」と笑顔を見せてくれた。それからグルメな人が来ると案内したが、毎回記憶に残る味が登場するのだ。

造り

曽根崎新地の店はビルの1階にあってとてもわかりやすい。8席あるカウンターの端に座って、はじめの1杯はいつものハートランド。出された白和えは、落花生、車海老のおぼろなど具だくさんの秋の味。
お造りは、かますの昆布締め、サワラの漬けなど、ひと手間が味に深みを出している。醤油味を付けた山わさびのすりおろしを添えて食べると、なんとも言えない美味しさ。

休業中、何してたんですか? このところ私の定番の質問だ。すると﨑さんは、小学生の息子さんと一緒にお遍路をしていたとのこと。四国八十八ヶ所をめぐり、現在2周目の途中だそうだ。「時間ができたので、なんとなく始めたら、人との出会いや自然の美しさに魅せられて・・・」と、その魅力を語ってくれた。たまたま出会ったフランス人の女性医師とは文通を続けているそうだ。

キスの握り

さて、楽しみにしていた寿司。キスは昆布締めにして、繊細な身を編むことで食感を出している。逆にイカは丁寧に切り込みを入れて食感をなくす。無から有を生み、有るものを無くす。この対比を﨑さんはおもしろがっている。ニシンは酢に浸けて3週間寝かせて骨を溶かし、酢飯ではなく酢で味付けた大根おろしで握る。
山盛りのウニは愛媛と徳島、2種類の味を楽しむ。さらに蒸しイクラの温泉卵を酢飯にかけたもの。もちろん、トロ、中トロ、大トロ、コハダと定番の握りも出てくる。
日本酒の好みがはっきりしている私だけど、ここではすべて﨑さんにおまかせ。作 雅乃智中取り、笑四季Sensation White、仙禽 一聲をいただいた。

そして、前に食べて印象的だったTKG。「たまごかけごはん」の細巻きがどうしても食べたくて、おなかはいっぱいだったけれど、追加注文して大満足の夜となった。


◆ Data
鮨 美菜月
電話:06-6342-1556
住所:大阪市北区曽根崎新地1-5-7 森ビル1F
営業時間:18:00~23:00(LO.22:00)
休み:日曜、祝日

※新型コロナウイルスの感染拡大防止のため対策した上で取材・撮影しています。
※お出かけの際は府県が発表する最新情報とお店の営業状況をご確認ください。

 


◆ Writing / 松田きこ(ウエストプラン)
http://www.west-plan.com/